静夏堂

個人的考えのまとめ。主に音楽や本や映画とかアートとかについて

アニメの未来について.富野由悠季トークショー感想

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 さて、富野由悠季監督のトークショーの感想です。
 富野監督の他ゲストとして、ロボットベンチャー創業しエネルギー分野での投資を目的としたファンド運営をされてる加藤崇氏と、フランスでアニメを広めるビジネスをしているセドリック・リタルディ氏のお二方が登場しました。
 トークのメインテーマとしては「アニメーションの未来」が挙げられてましたが、この2人をゲストに招く事によって、アニメだけでは無く、ロボット工学やエネルギーの未来とその影響、そして国際文化について考えて欲しい、という配慮があったと思います。

 まず富野監督を生で観た感想を述べると、サイズよりも大きめな黒のスーツとトレードマークの黒帽子を被っての登場で、思ったより小柄で、歳相応のお姿をしていました。
 が、開口一番「打ち合わせで散々話しているので、もう疲れてる」と言いつつも、ハキハキと語りだし、用意されたイスにもすぐに座らず10分近く前のめりで話し続けていました。
 ゲストの話を真剣に聞きつつ、気になった事はすぐメモしていたり、トークが進むにつれて活発になり、夢中のあまりかイスの足掛けの上に立っては我に返って「何で僕こんな高い所に立ってるんだろ」と笑いを誘ったりと、非常に印象深かったです。

 以下、気になった発言を書いてみます。

  •  アニメに未来は無い。今のままだと。

 「源氏物語』を今読んでいて、その当時から「現世は末世だ」と書かれている。この人の心性というのは、この先も不変だろう」、という文脈を踏まえた上での発言でしょう。
 ではなぜ今のアニメには未来が無いかというと、黎明期のかつては「異能の集団(多分野からの集まり)」であったアニメの業界が、いつの間にかアニメ好きばかりが作り手になっている。それ故、視野狭窄に陥り自由度が低下している。

 つまり専門化してしまう事の弊害への指摘です。これはかつてバックミンスター・フラーが「専門家を優遇し分業化が進みすぎると、歪が生まれ本質を見失い、精神的にとても貧しい状況をつくり近視眼にさせてしまう」という発言とも一致した見解でしょう。
 
 「個人の妄想を作品にしたような物を公にしたものは、もはや作品とは呼べない」。もう20年ぐらい前から似たような事を指摘していますがYouTube時代である現代では、これはもっと意識せねばならない問題です。
 「だが、そんな問題意識を抱きアナウンスしている作り手が皆無に等しい

 作り手は既存のシステムに乗らないと食ってゆけない、というのは配慮しつつも、「単純に今後のことを考える事から、逃避しているだけでは無いのか」。

  • もっと広いマーケットへ向けて

 その解決策として「専門化の結果、アニメに対して誤解ともいえる固定観念があり、流行性を追ったものしか作れて無いのではないか。そのためには、もっと広いマーケットに向けて作る必要があるのでは」と力説していました。
 「深夜にアニメが大量にオンエアされているのは気違い沙汰だ…あ、放送コード引っかかちゃった(笑)。正常では無い、と思います。この現状は自分たちの仕事の確保のために容認しているだけなのでは」この発言はやはり、「アニメとは子どもが観るもの」という一貫した思いからでしょう。

  • 映画やアニメはもっと楽しくてみんなで喜べるもののはず

楽しくて和気あいあいとしたのが基本。でも悲劇や絶望的な要素があっても構わない。しかし重要な事は、作品には矜持が見えなくてはならない。ただ自分が作りたいものだけを作ってそれを作品だというのは、おかしい
 これも個人的な趣味に偏った妄想を公にしてはいけない、という警鐘でしょう。

  • ゲストをまじえて

ガンダム世代の次の世代にも、こんな分野で活躍してるんだぞ」という紹介の入れ込みで、加藤崇氏のトークが始まりました。冒頭に書いたように、氏は三菱銀行やIT起業の執行役員などを経て、ロボットベンチャーを興し、現在は生命科学やエネルギー分野に投資するファンド代表取締役です。
 氏の発言で富野監督も会場も大きく頷いていたのは「リアルティが喪失している」という発言です。机上で話されるような言葉で抽象的にしてしまい結果、具体的なリアルティが見失われがちである。こういった専門化によって生じる弊害は、アニメの業界だけでなく、やはり他分野でもおこっているのだな、と思いました。

 また「ソーシャルゲーム業界からの投資はあえて除外した」というのも意味深い発言でした。

 もう1人のゲストでフランス人であるセドリック・リタルディ氏については通訳を通してというのもあり、深いトークは中々出来なかったと思うのですが、日本のアニメをきっかけに16歳でフランスでアニメを広めるビジネスを始め、フランス人は富野監督のように懐疑主義な人間が多く自分もその1人だと言った上で、やはりアニメには人々を元気づける力があり未来は明るいはずだ、と前向きであったのが印象的でした。

  • 新作はお子さんに観せてあげて下さい

 さて新作『ガンダム Gのレコンギスタ』が発表され話題になっていますが、その事について監督は「人類が滅亡するような物語にはしない。そういう陰々滅々としたのは世紀末モノが好きな作家が書けば良い。明るく楽しくという命題の元制作している」とのこと。
 「だからこそ、子どもたちに見て頂きたい。いい歳したあなた方は見なくて良いから!」と平均年齢がおそらく30〜40代の会場のお客に向けて強調していました。もちろんこれは半分ジョークで、やはり全世代に見て欲しい気持ちは変わらないはずです。

 その他、アニメという媒体は記号的なものであるので後年へ伝えるのに便利な媒体であるとか、「若い人に負けたくない、という年寄りの言葉はいい加減、聞き飽きた」という発言とか、色々印象的な話題はあるのですが、とりあえず一区切りしたいと思います。

 

 90分のトークショーでしたが、あっという間でした。ショーとは言うものの、上に記したように話は深くて広く、聴衆である自分も前かがみで聴き入っては様々な事を考えさせられました。次の機会があればまた参加したいし、何より新作がどういった物になるのか期待がより膨らんだトークショーでした。

 

富野由悠季という超有機体 - 静夏堂