静夏堂

個人的考えのまとめ。主に音楽や本や映画とかアートとかについて

『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』感想文〆ネタバレ有り

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『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』を観ました。

大変おもしろかったです。
ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』の矢口史靖監督の新作で、主演は染谷将太


以下、ネタバレ有りの感想文。

 



あらすじを簡略すると、「大学受験に失敗し進路をどうするか悩んでいた19歳の都会に住む青年が、ふとしたきっかけで林業の世界に身を投じる」といった感じ。

つまり、青年の成長物語です。

まず、展開の回し方が非常に良いです。
たとえば、研修の学校生活をダラダラと描かないで伏線を張る程度にし、すぐに現地で実務に入る所など。
製作陣がどこまで意識したかは分かりませんが本作の主題通り、木を伐採する職人の如くスパスパと編集を切っているようで、爽快です。

現代っ子を代表するような主人公で、見ていてイライラするのですが、これも狙いの1つでしょう。
都会から携帯すら繋がらない山奥に着いた当初は、当惑しナヨナヨしてるのですが、林業に従事する人々を目の当たりにし、また自分もその仕事をしてゆくことによって、成長してゆく。

伊藤英明演ずる主人公の居候先の主かつ先輩は、厳しくも天性な腕を持った職人でその仕事姿は目を見張るものです。
特に、100年杉を伐採するシーンでチェーンソーを木に入れ木屑が華麗に舞い飛ぶカットは、非常にカッコ良く、そして美しい。
こんな画を、映画を通して自分は今まで目にした事がありません。
主人公もまた目を輝かせ、よりその世界へ魅入られてゆきます。

仕事にも環境にも慣れて来た頃、主人公の元カノが所属する大学生サークルが訪ねて来ます。
スローライフを体験する云々の名目らしいのですが、観光客気分で終始ガヤガヤ騒がしく、珍獣を撮るかのように伐採の様子をカメラで撮ってゆきます。
この学生たちが撮るレンズ越しの画がニクイ演出で、観客含めた現代人の目線を象徴しているようにみえました。

学生サークルにありがちなクソ馬鹿臭が滲み出ていて腹立たしいのですが、話としてはそれがまた良い効果を生んでいる。

騒がしくチャラチャラしている学生達に、例の先輩は時折キレそうになります。
ですが、その1日の終わりのバーベキューの際、上から目線で感想を言い合っている学生達に、主人公が檄を飛ばします。

「なんだコイツは」といった感じで不貞腐れて帰る学生たち。
元カノも困惑しつつもその場を後にするのですが、主人公はもはや目も向けないといった感じ。

ここでは、「都会でヌクヌクと育った、もやしっ子であったかつての自分」との決別が表れています。

さて、話は数十年ぶりに行われる大きな祭りというクライマックスに向かってゆきます。

祭りの前日は山に結界を張り、主人公や先輩たち木樵ですら入れない。
なぜなら、神隠しにあってしまうから。
そんな迷信めいたことを笑う主人公だったのですが、村の子供の1人が山に入ってしまい、本当に行方不明になってしまいます。
村人総出で捜索活動を行うわけですが、結界を張った山に入る際、応急処置的に身を清め縄を切ってから山へ入る所など、細かく描写されているなと思いました。

そして、霧に包まれる中、主人公は誰かに手を引っ張られて、その子供の元へ連れてゆかれます。
手にご飯粒が着いている事から、先のシーンで主人公がふと目にした川の地蔵におにぎりを捧げており、その精霊がその恩返しをしたのだと分かります。

そんな一騒動も落ち着き、祭り当日。
数十年ぶりであるこの祭りは村人はもちろん、林業者にとってはさらに重要なものです。
なぜなら、褌をし身を清めて火木を頼りに山に登って日の入りと共に巨大な、本当に巨大な木を、村周り一体の木樵総出で伐採するからです。

それも、チェーンソーといった文明の利器を一切使用せず、斧と鋸と縄と人力という古代のそれと変わらないやり方で。
大樹はようやっと倒れ、木樵達が一斉に丸太にしてゆく姿がまた良い。
そして山の頂きからその巨大丸太を、女達が待つ村人のもとへ流すわけですが、主人公は縄に足を取られてしまいそのまま丸太にまたがったまま、大きなしめ縄に突っ込みます。
そして、巨大丸太に手を触れてゆく若い女たち。
もちろん、子孫繁栄と五穀豊穣の祈願のそれです。

そんな大祭りも終わり、主人公の1年の研修も終了し涙ながらに先輩らと別れて、都会に帰ってきます。

扉を開ける前に両親の変わらない姿を目にした主人公なのですが、どこからか匂いがする。
家に上がる前に、外へ出て鼻を頼りにその匂いを探しにゆきます。
それは、建築中の家の木材の匂い。

それを目にした主人公は、再び電車に乗って田舎に戻り林業の世界に本格的に入って、話は終わります。

さて、本作は大きく2つの視点から読めると思います。

1つは、主題通り林業に従事する者達の真剣な姿。
次に、祭儀とそれを盛大に執り行う村人達の姿。

共通しているのは、古代から本質的に変わらない人間の生活の姿です。
ド田舎でもネットが繋がり、車をひとっ走りすれば娯楽に満ちているであろう街にゆける現代の環境でも、山という自然を中心に据えた生活そのものは今も昔も同じなのです。

それを明白に表すのが、クライマックスたる大祭り。
テクノロジーに操られた現代の我々からすると、祭儀そのものの意味は非合理的に見えがちです。
しかし深く考えてみると、世界中いつでもどこでも祭りと信仰があり、それは人間が人間たる証であるのです。

惜しかった点も挙げておきます。

まず、田舎の登場人物たちの肌があまりに綺麗すぎます。
つまり、泥臭くない。
ヒロイン役の長澤まさみに至ってはあまりに白すぎて、田舎にいる美少女とは見えませんでした。
主人公も成長するにつれて肌色が黒みがかって良いはずなのに、顔に出ていない。
劇におけるメイクの重要性を、逆説的に学びました。

次に、ラストをもうちょい捻れなかったものか。
一旦都会に帰ってすぐまた戻る、というのは辻褄合わせのように見えて、残念でした。
だったら、田舎での別れで終わりにした方が余韻も残ってスッキリしたと思います。

それと、エンディング曲があまりにポップすぎてズレています。

劇中では太鼓など和楽器を上手く使っているのだから、その流れで作れば良いものの。

最後に、個人的に好きな部分。

田舎の人らの肌が綺麗すぎると書きましたが、道端で煙草を吹かしながら麻雀をする婆や達の年季が入った感じが良かったです。

集会場の机には灰皿が置かれ、林業者たちも休憩の合間には煙草を吹かして、味が出ている。

風立ちぬ』程までとは言わないまでも、本当はもっとプカスカ吹かして良いぐらいです。

ここら辺、『ウォルト・ディズニーの約束』でも指摘したのですが、米映画界はホント見習って頂きたい。

『ウォルト・ディズニーの約束』映画感想#2,読解 〆ネタバレ有り - 静夏堂

自分が愛煙家だからという訳では無いのですが、煙草というのは劇において重要なアイテムになるのです。

(ついでに書くと、喫煙というのは自然への祈りから始まったものです)

感想文は以上で、人にお勧め出来る作品でした。
原作は未読であるので、ぜひ読んでみたいと思います。

 

神去なあなあ日常 (徳間文庫)

神去なあなあ日常 (徳間文庫)